評価:4.5
- 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
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1956年。ダーリントンホールの執事として長年ダーリントン卿に仕えてきたスティーブンスは、新しい主人のファラディ氏のフォードを借りて、イギリス西岸のクリーヴトンで休暇を過ごす。スティーブンスは、ダーリントンホールの人手不足を解消するために、かつての同僚のミス・ケントンに助力を頼もうと会いに行くのだった。
スティーブンスはその道すがら、ミス・ケントンやダーリントン卿とのやりとりを思い出しながら、「品格」とは何かについて考察を深めていく。
第一次世界大戦後のイギリスにおける対ドイツ宥和派だったダーリントン卿のロビー活動を描きながら、品格ある執事の鑑だった父親、自分の仕事にこだわりをもつミス・ケントンとの確執、融和、別れを振り返りながら、現代において時代の流れに翻弄されるスティーブンスの独白という形で物語は進んでいく。
スティーブンスの執事らしい丁寧な物腰とは裏腹に、その人格の抱えている問題点も浮き彫りになってくるから面白い。スティーブンスは面白がらせているわけではないのに、その行動や言動がツッコミどころ満載で、微笑まずにはいられないのだ。壮大なボケを展開して、そのまま最後まで突っ切ってしまおうとするスティーブンスに、読者は心の中でツッコまさせられてしまうのである。「知っててやってるやろ」と思わずにいられないのだが、どうも本人はまったくの天然なのだ。
この物語の、というかスティーブンスの特にこだわるテーマである「品格」について、彼が人から問われるシーンがある。そこでスティーブンスは「品格」について、
「これは、なかなか簡単には説明しがたい問題でございますが」と私は答えました。「結局のところ、公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないことに帰着するのではないかと存じます」
「すみません、何がですか?」
「品格が、でございます」
「なるほど」医師はそう言ってうなずきましたが、何のことかわからないといった顔つきでした。
ほら。読者みんなの気持ちを代弁してツッコんでくれてる。
一応、スティーブンスは彼なりの(そして現在ファラディ氏に影響されて絶賛練習中の)ユーモアを駆使して応えているのだけれど、彼の心情をずっと読んできたいわば並走者である読者すら置き去りにしてこの発言なのである。
しかも医師のツッコミも、「なるほど」で終わってしまっている。関東人か。あと一歩ツッコめ(笑)。
そしてミス・ケントンとの再会へと物語は進んでいくのだが、それについてももはや「志村、うしろ、うしろ」と叫ばずにはいられない。わざとやってるやろ、スティーブンス。
そんな作品である(たぶん違)。