マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


八日目の蟬

評価:4.5

八日目の蝉 (中公文庫)

八日目の蝉 (中公文庫)

とある女性が、生まれたばかりの女の子を誘拐し、そのまま育てていく物語……読むまでのイメージはそんな感じだったのだが、読み始めてみるともっと深く、心の奥をまさぐられるような小説だった。
登場する人物はみな、心に影があり、生きていく環境に問題がある。それは人間的な弱さであったり、環境への不満であったり、身体的な問題であったり。
主人公の野々宮希和子は、ある夫婦の自宅に侵入し、生後6カ月の女の子を衝動的に連れ去ってしまう。
その子に薫と名付け、方々に逃げ回る希和子は、自分がしでかしてしまった罪を意識しながら、薫を懸命に守り、育てていく。
ドラマ版をかみさんが観ていたので、ドラマ版の最後のシーンは知っていたのだが、どうやらそれはドラマ版だけのものらしい。
そのイメージが強かったので、第2章に入ってからは少し面食らってしまった。
だが、その第2章があるからこそ、この物語に二重性がもたらされ、この事件に巻き込まれた人々の感情の揺れ動きがより厚みをもって感じられるようになるのだろう。
特に薫と呼ばれた少女の、特殊な人生については様々な方向に想像が膨らんで行く。