マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


『死霊館 悪魔のせいなら、無罪』 Conjure なのか Curse なのか

評価:4.0

死霊館』シリーズの最新作。

1981年にブルックフィールドで起きたある殺人事件を題材にした物語。

原題は「The Conjuring: The Devil Made Me Do It」(悪魔が私にやらせた)。

個人的には今回の邦題はイマイチな気がしている。「悪魔が俺に殺させた」くらいでいかがだったろうか。ともあれ。

エド&ロレイン・ウォーレン夫妻は、デイビッドという少年の悪魔祓いを行うためにグラッツェル家を訪れていた。

しかしデイビッド少年に憑いていた悪魔は非常に強力で、激しい抵抗を受けてしまう。この騒ぎの中で、デイビッドの姉デビーに想いを寄せるアーニー・ジョンソンが悪魔を自分の中に取り込んでしまうところから物語は始まる。

アーニーはその後、デビーが働く「BBケネル」の経営者ブルーノを殺してしまうのだが、これが悪魔による仕業だとウォーレン夫妻が法廷で証明することになる実話を元にしているという。

残念ながら法廷の記録は既に破棄されているらしいが、少年の悪魔祓いを行なった音声は残っているし、デビーやアーニーからの証言も得られている。

ただ、実際の殺人が起こった状況を考えると、アーニーとブルーノがかなり酒に酔っていたということや、アーニーが普段から割と粗暴な言動をしていたということから、本当に悪魔のせいだったのかどうかはよくわからない。
作中ではそういう疑念を抱かせるような描写はなく、完全に悪魔によるコントロール下に置かれていたものとして描かれている。

このシリーズに限ったことではないが、「curse」(呪い)と「haunted」(幽霊のいる)、「Demonic possesion」(悪魔憑き)には明確な違いがあるようだ。

「curse」は、人による呪いで、その呪いの結果として人を「Demonic possesion」の状態にすることもできる(今作はまさにそれ)。

「haunted mansion」は「呪われた家」と訳されることもあるが、どちらかというと「幽霊がいっぱいいる家」という感じらしい。「haunt」は「取り付く」という動詞で、「haunted by memories」などのように、取り付くのは必ずしも霊的なものばかりではないのだが、「by」が省略されていると大抵「幽霊に」取り付かれていることを指すようだ。

「possesion」は、サッカーW杯でもよく使われたので聞き覚えのある言葉だが、「所有」を指す。「ball possesion」は「ボールの支配率」である。「Demonic posssesion」は「悪魔に支配(所有)された状態」つまり「悪魔憑き」を意味する。悪魔が取り憑くのは人や物であり、「haunt」を使えば「haunted by the devil」になる。
なお、「死霊館」の原題の「Conjuring」は、霊や悪魔などを呪文で呼び出す「conjure」から来ている。

なぜこんな話を始めたかというと、この作品では「curse」は「解くことができるもの」として捉えられているからである。「Demonic possesion」は神父による聖書や聖水を用いた悪魔祓いが有効だが、「curse」は必ずしもそうではない。

儀式によって「呪われた」ため、それを「解除」する方法がある、というのはなかなか興味深い設定である。また、「呪い」は悪魔を呼び出して何らかの生贄を捧げて契約することなので、「呪い」が「解除」された後は「呪い」を行なった者が生贄の代わりに悪魔に魂を取り込まれてしまうというのも面白い。

そんなわけで、『死霊館』シリーズは西洋のオカルティック文化の勉強になるなぁ、というお話でした。