マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


『ファイト・クラブ』 ただのバイオレンス映画だと思ってました

ファイト・クラブ [DVD]
正直言って、『ファイト・クラブ』をなめてました。ただの地下ボクシングクラブが舞台のバイオレンス映画かと思ってました。

生々しい殴り合いシーンはやっぱり生理的に受け付けないんですが、徐々に引き込まれていきました。たまらんなぁ、この映画。今までなめてたことを深く反省いたします(汗)。

情報と物質に支配される現代社会。そこに生きる主人公(実は名前がない、と思われる……いわゆる一人称小説における「ぼく」)を演じるのはエドワード・ノートン

不眠症に悩まされ、生きる活力を失った主人公は、実は現代社会に生きる我々自身である。

末期がんや睾丸を失った人たちなどのあらゆる病人たちの会に参加し、他人の死や悲しみを傍観することでなんとか自分の生を保っている主人公。そこにいると心が安らかになり、安心して睡眠をすることができるようになる。

ところが、そんな彼の安息の場所を邪魔する存在が現れる。マーラである。彼女は、死とは無縁な健康体なのに、病人たちの自助会に毎日参加している。彼女と出会うことで、彼はふたたび眠れない毎日に戻ってしまう。

そんなときに現れたのが、飛行機の中で知り合ったタイラー・ダーデンブラッド・ピット)。自信に満ち、危険な雰囲気のするタイラーとの出会いが、主人公の生活をどん底へと一変させることになる。

……とまぁ、こんな感じの序盤なんですが。

ここまで至るまでの描写の中にも、節々にうまい描写が出てきたりします。かなり文学的です。これはちょっと、ほんとに忘れられない映画になりました。

暴力シーンが確かに多いんですが、暴力を肯定しているわけでもない。どちらかというと、『時計じかけのオレンジ』とか『バトル・ロワイヤル』のような感じです。暴力に支配される若者を描きながら、それを肯定しているわけではない。

一般に、暴力は他人に向かうものなんですが、この映画の中での暴力は「自分に向かっている」というのが注目すべき点かもしれません。ここで表現されている暴力は単なる「破壊」ではなく、「自己破壊」なんですね。それがまたあのラストシーンに繋がっていく……と。

ううむ。噛みしめれば噛みしめるほどすごい映画です。

とはいえ、暴力シーンの描写は容赦ないので、そういうのが苦手な人にはちょっとオススメできないかもしれません。

でも、この映画の場合は上にあげた二作よりはずっと観るに耐えます。それ以上に、暴力描写の向こう側にある世界感や展開がすごいので、多少暴力シーンが苦手でも無理して観て欲しいくらいの作品です。

いやぁ、随分映画を観てるつもりなんですが、観てないすごい映画がまだまだあるんだなぁと実感しました。