マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


伊豆の踊子

評価:5.0

伊豆の踊子 (角川文庫)

伊豆の踊子 (角川文庫)

昨日は熱海に出張だったんですが、そういえば『伊豆の踊子』読んだことがないなぁと思い、読んでみました。
一冊まるごと『伊豆の踊子』かと思ってましたが、短編集だったんですね。あっと言う間でした。
しかし、踊子(というか旅芸人)、伊豆の人たちにめちゃくちゃ蔑まされてるやん。この時代の旅芸人というのはそうだったのかと今更ながらに思い知りました。
茶屋のおばあちゃんなんて顔を合わせてるときには「こんなに綺麗になって」なんて言っておきながら、陰では「あんな者、どこで泊まるやらわかるものでございますか」と明らかに侮蔑まじりに言い捨てる始末。下田へ至る村々の入り口には「物乞い旅芸人村に入るべからず」って書かれてるし。物乞いと旅芸人は同列(もしくは同一)だったということなのでしょう。
そんな踊子を、今では特急列車の名前にまでしてるというのは、感慨深いものがあります。
「私」が彼らを軽蔑しないのは、彼が伊豆に一人旅に出た経緯にも関係があるのかもしれませんが、踊子への単なる恋心とも受け取れます。
修善寺から下田に移動する間に、彼は旅芸人と仲良くなっていきますが、義母(兄嫁の母)は彼らの仲が良くなりすぎるのを警戒します。
「私」が下田で彼らと別れるのはなんだか唐突のような気がしました。金がなくなったのが第一の理由として書いてありますが、それにしても急です。
しかし、これ以上は一緒にいられない(いることが許されない)のを、私も踊り子も感づいていたんでしょうね。お互い、不器用に別れを迎えることになります。
「私」が踊子の思い出を胸に再び伊豆に訪れる物語は描かれていませんが、読者が「私」の代わりに伊豆に行くにはちょうどいい列車の名前かもしれませんね。
次回伊豆に行く時には、この物語を思い起こしながら周りたいなと思います。

ほかの短篇は『青い海 黒い海』、『驢馬に乗る妻』、『禽獣』、『慰霊歌』、『二十歳』、『むすめごころ』、『父母』。『慰霊歌』は、まさかのホラー的作品(笑)。