マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


『深夜特急』第1巻 香港・マカオ

評価:5.0

深夜特急1―香港・マカオ― (新潮文庫) [Kindle版]@Amazon (Amazon)
沢木耕太郎のベストセラー。バックパッカーのバイブルとも呼ばれていたのは知っていたが、読むとハマると思ってずっと敬遠していた。
Kindleで第1巻がセールの220円だったので購入。読み始めて、この危険さに呆然とした。
学生時代に海外に安旅行する、というのは誰しも経験あることなのかもしれないが、デリーからロンドンまでを陸続きに旅するなんていう壮大な冒険に出かけようなどと思うのはほとんど酔狂である。
しかも、この第1巻は香港、マカオ編。まだ出発地のデリーにすら辿り着けていない。
デリーまでの中継地・香港に逗留し、毎日が祭りのような熱気にほだされる主人公。旅先ですれ違う人たちとのふれあいや、その国のさまざまな生活レベルの人々の日常を描きながら、主人公がどのように成長していくのか、はたまたどのような困難に巻き込まれるのかを描いていく。
香港の空港でたまたま縁ができた青年から紹介された「黄金宮殿迎賓館」に宿泊し、毎日を香港の喧噪の中で過ごす旅情日記。
後半はマカオに渡り、ギャンブルなんて興味がないような描写の後に、どんどん泥沼にハマっていくギャンブル小説になる。
一気に読み終えてしまった。

以下、引用。

ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐずしてはいられない、と思ってしまったのだ。

それが香港で、一週間、また一週間という具合に滞在が延びていき、そのたびにイミグレーション・オフィスでビザ代として三十香港ドルずつ召し上げられることになったのは、ゴールデン・パレス、つまり黄金宮殿という名の奇妙な宿屋に、訳もわからぬまま放り込まれたことから始まった。

計画を立て、その通りに動くくらいなら、このような旅をする必要はないではないか、と思えたからである。

愛には三つあり、死にも三つある。

少なくとも、王侯の気分を持っているのは、何がしかのドルを持っている私ではなく、無一文のはずの彼だったことは確かだった。

綴りはやはりDICEだった。しかし意外だったのはそれが複数形で、賽の単数はDIEであると記されていたことだった。DIE、つまり死だ。賽が死とまったく同じ綴りを持っていることに驚かされた。

私が望んだのは賢明な旅ではなかったはずだ。むしろ、中途半端な賢明さから脱して、徹底した酔狂の側に身を委ねようとしたはずなのだ。

心が騒ぐのなら、それが鎮まるまでやりつづければいい。賢明さなど犬に喰わせろ。張って、張って、張りまくり、一文無しになったら、その時は日本に帰ればいい。

恐らく、私は、小さな仮りの戦場の中に身を委ねることで、危険が放射する光を浴び、自分の背丈がどれほどのものか確認してみたかったのだと思う。