マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


クライマーズ・ハイ

評価:5.0

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

1985年8月の日航機墜落事故を題材に、群馬県の地方紙「北関東新聞社」で日航全権デスクを任命された悠木を主人公とした物語。
その日、販売局の安西と衝立山に登る約束をしていた悠木は、群馬の御巣鷹山に墜落した日航機事故の紙面作りに追われ、約束を果たせなかった。安西はその日、路上で倒れ、県央病院に入院していた。くも膜下出血だった。
過去の大久保連赤という実績にすがりつく編集局長室、社長の失脚を狙う飯倉専務派閥の販売局長。その間を右往左往しながら、日々目まぐるしく編集の仕事は進んでいく。
事件直後に御巣鷹山に登りながらも雑感を紙面に載せられなかった記者、事故原因のスクープを掴みつつも裏取りに苦悩する記者、死亡事故被害者の面取りを苦にして自ら死を選んだ記者、5年前のその死を未だに消化しきれない従姉妹……。
様々な群像劇の中にありながら、一人の記者として、父親として、山登りとして、一年生記者を自死に追いやってしまった先輩として、そして途方もない事故を前に大きな責任を背負う悠木の苦悩を描く。
映画の方を先に観たが、心の揺れ動きはやはり原作の方が深く繊細だった。新聞社の構造的な軋轢や社内事情、記者としての信条をこのリアリティで描き切るのは、横山秀夫の経験と筆力の為せる業だろう。
35年前の事故を題材にしているが、この事故のことは記憶の中に鮮明に刻み込まれている。そして悠木と安西の息子が自分と同じ歳だったことに気づいく。完全に悠木に感情移入して読んだが、淳や燐太郎の視点で読むことができたのだと思えたのは、読了後だった。