マンガ、映画の感想をベースに、たまにいろいろ書いてます。


『死ぬまでにしたい10のこと』 without me

評価:3.5

死ぬまでにしたい10のこと@ぽすれん (ぽすれん) 死ぬまでにしたい10のこと@Amazon (Amazon)
原題は「My life without me」。

23歳の若さで、余命3ヶ月と言い渡される主人公が、最愛のふたりの娘や人生を嘆いてばかりいる母親に死を隠しながら、最後の人生を思うままに生きる、という内容。

主人公の独白の形で綴られているんですが、邦題の『死ぬまでにしたい10のこと』というイメージよりも、原題の「My life without me」という部分のメッセージ性が強いです。

「死」を眼前に捕らえるということは「自分のいない世界」を想像することだ、というメッセージ。それを、淡々としたタッチで、しかも悲壮感ではなく優しさと暖かさで描ききった作品です。

17歳で最初の娘を生み、19歳で二人目の娘を生み、母親の住む家の敷地内のキャンピングカーで親子4人で暮らす主人公。

父親は刑務所に服役中で、物心ついてから全然会っていない。母親はあらゆるものについて不平・不満を吐き散らす。夫は自分にとっての最初の男性で、魅力的で優しいけれど、定職につかずにフラフラしている。

自分は23歳で、大学構内の清掃員の仕事をしている。同僚はダイエット狂いの過食症。繰り返される平凡な日々。毎日聴くのは音楽ではなく中国語会話のテープ。何かを変えたいとは思うのだけれど、何も変えられず淡々と過ぎる毎日……。

そんな主人公アンに、突然言い渡される死の宣告。

彼女は、周囲にその事実を隠し通すことを決め、自分がいなくなった後のことを想像し、メッセージを残すことにする。

泣ける……というよりは、いろんなことを考えさせられる映画でした。登場人物それぞれがいろんな問題を抱えていて、アンに接することでいろんな変化が現れるんですが、それがまた実にじんわりしています。急激な変化というわけではなく、やんわりとした変化。その変化に本人すら気付かないかもしれないくらいの変化。

そして、アン自身は着実に死に近づいていく。淡々と、確実に。

死期を悟った人間の行動という意味では、『アバウト・シュミット』に近いものがあるかもしれません。

単に愛する人たちにメッセージを残すだけでなく、愛人を作ることで自分自身の人生をも楽しむアンの姿は、きっと賛否両論だと思うんですが、個人的には非常にしっくりきました。

「My life without me」というのは、自分の死後のことだけではなく、実は死の宣告の前のことも指してるんですね、きっと。逆説的に、死の宣告を受けてから死ぬまでの間にある「My life with me」を描いた映画なんだと考えると、非常にしっくりきます。

久々にいい映画を観た気がしました。