評価:5.0
https://www.netflix.com/jp/title/80234304
Netflix独自ドラマ。
チェスを題材にした作品だということは知っていたが、内容は全く知らない状態で視聴。
エピソード1の冒頭シーンから圧巻。酒、薬物依存とチェスの天才少女というアンバランスな存在が、視聴者の目に焼き付く。
母子家庭で育ったエリザベス・ハーモンは、母を車の事故(それも恐らくは故意の)で失い、教会系孤児院に預けられる。
そこで彼女は、用務員のシャイベルが地下室でひとりで並べていたチェスに興味を示し、のめり込んで行く。同時に、60年代に一般的に処方されていた精神安定剤か何かの薬物に依存していくようになる。
薬物依存と天才という組み合わせは、さまざまな作品で描かれているので、正直言ってあまり興味は引かれなかった。薬物によって一時的なインスピレーションに恵まれつつも、やはり薬物によって身体や精神が壊れていき、本来の才能が溶けていくというストーリーが待っているのは明らかだと思われた。チェスの早熟な天才が、薬物使用によって損なわれ続けていくのであれば、例えその課程でどのような煌びやかな栄光があろうと、それはあまり好んで観たいとは思わないな、というのが冒頭シーンを観たときに感じた私の偏見だった。
しかし、この作品で重要なのはそこではない。もちろん、薬物やアルコールに依存していく課程も描かれているが、それ以上にチェスという盤上の芸術、互いの才能を認め合い、自分自身の力を磨いていく、勝利を求め栄光を追いかけるプレイヤーたちの輝きや葛藤、閃きと挫折を描くことで、主人公のベスの歩む人生がより深く魅力あるものに映るように描かれているのである。
個人的には、チェスのルールは全くわからず、取った駒を使えない西洋将棋、というくらいの認識しかなかった。
しかし、この作品を観終わってみると、チェスをやってみたくてうずうずするようになってしまった。
この感覚は『ヒカルの碁』で囲碁を覚え、いつしか囲碁名人戦の運営担当になってしまうほどにのめり込んでしまった頃に覚えたものと全く同じである。やはり、ルールのわからない盤上ゲームであったとしても、それに打ち込むプレイヤーたちのドラマを観ると、その世界に触れたいと思ってしまうのは免れないのかもしれない。
そんなわけで、この作品を観終わってから最初にやったのは、チェスのルールを調べることと、スマホのチェスアプリを探すことだった。このドラマが公開されてすぐにチェスボードの売れ行きが好調だったのもよくわかる。
いやぁ、いいドラマだった。まだ観ていない人は、チェスや囲碁将棋好きでなくても一度ご覧いただきたい。
これだからNetflixだけはやめられない。